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大学礼拝「目には目を、歯には歯を」2022/9/7

カテゴリー:大学礼拝

【マタイによる福音書 5章38-42節】
5:38 「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。
5:39 しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。
5:40 あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。
5:41 だれかが、一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい。
5:42 求める者には与えなさい。あなたから借りようとする者に、背を向けてはならない。」

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今年もまた9月11日が廻ってきます。「911」と聞いて皆さんは、どんな出来事を思いおこしますか? 皆さんが生まれる少し前、2001年9月11日(火)朝に、テロ組織のメンバーが4機の航空機をハイジャックして、ニューヨークのワールド・トレード・センターや国防総省(ペンタゴン)の建物に、航空機を体当たりさせて3000人近い人が犠牲になった出来事です。ワールド・トレード・センターはニューヨークのマンハッタンにあります。マンハッタンは超高層ビルが林立する地域で、アメリカの富と力の象徴のような場所です。超高層ビルの中でもワールド・トレード・センターはひときわ高いツインタワーでした。そこにハイジャックされた航空機が突っ込んだのです。
そしてアメリカ国内では、テロの実行犯がイスラム教徒だったことで、アメリカのイスラム教徒やアラブ系の人々に対するヘイトクライムが急増します。アラブ系の人びとが嫌がらせをされ、職を失い、暴力を振るわれたのです。この報復の連鎖は、いまだ治まらず、世界は今日も苦悩しているのです。

ただいま聴きました新約聖書マタイによる福音書第5章38~42節は、旧約聖書の出エジプト記21:22-25(E)、レビ記24:17-20(P)、申19:19-21(D)にある「目には目、歯には歯」の教えを解釈している箇所です。「目には目を」という「同害復讐法」はバビロニアの『ハンムラピ法典』に同じような規定があります。良く「目には目を」の意味を、報復を煽る「やられたら、やり返せ」という意味で受けとめている人いますが、「目には目を」は際限なく繰り返されていく報復、仕返しを止めるための法律です。歯を一本折られたら、歯を一本折り返すことでお終いにするようにという言葉であり、仕返しを繰り返さない、復讐の連鎖を断ち切ることが目的です。受けた被害と同じ害を、一度だけ相手に仕返すことで終わりにするのです。

しかし、イエスさまは「『目には目を、歯には歯を』と命じられている。しかし、わたしは言っておく」と語り、一度の仕返しも放棄するように教えられるのです。わたしたちの世界が平和に至るためには、復讐の連鎖は断ち切られなければなりません。にもかかわらず、わたしたちはこのたった一度も仕返しをしないようにというイエスさまの言葉に、同意することが出来ません。そして驚くべきことにイエスさまはさらに「左の頬をも向けなさい」と、報復をしないどころか、被害をさらに被ることまで受け容れよと語られるのです。到底、イエスさまの教えを受け容れることなど出来ません。

しかし考えてみましょう。わたしたちの世界は、報復の連鎖の中にあります。仕返しが仕返しを呼び、憎しみは憎しみを生んで増幅し、とどまるところを知りません。
アメリカは、同時多発テロの後非常事態宣言を出し、アフガニスタンのタリバーン政府にビンラディンの引き渡しを要求し、アフガニスタンを攻撃し、タリバーン政権は崩壊します。さらにアメリカはイラクに対し、大量破壊兵器を隠し持っているとして、テロイラク戦争を開始し、サダム・フセイン独裁政権を倒すなどの蛮行に出ます。イラク戦争からその後のアメリカ軍のイラク駐留の期間に実に多くの無辜の市民の血が流れ、イラクの人のみならずアラブ諸国の人びとのアメリカに対する怒り・憎悪は増幅されました。
この同時多発テロを始めとした、世界の争いに目を留めるとき、わたしたち人間は互いに憎みあうことしか出来ないのかと悲しい気持ちになります。しかし、イエスさまは今日わたしたちに報復の連鎖を止めるために、まずわたしたちが仕返しをしない生き方を選び取るようにと呼びかけてくださっているのです。

今日の「復讐しない」のすぐ後に、有名な「あなたの敵を愛しなさい」という教えが続いていて、一つのまとまりになっています。敵を愛することの具体な例として、仕返しをしない生き方の例として、今日の福音書は語られているのです。

わたしたちは、報復を連等させるのではなく、希望と愛を連鎖させる歩みを、イエスさまに励まされて、今日から始めてまいりましょう。  (チャプレン 後藤香織)

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