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大学礼拝「祈るときは、こう言いなさい」2021/7/8

カテゴリー:大学礼拝

【ルカによる福音書 11章1~4節】
11:1 イエスはある所で祈っておられた。祈りが終わると、弟子の一人がイエスに、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、わたしたちにも祈りを教えてください」と言った。
11:2 そこで、イエスは言われた。「祈るときには、こう言いなさい。『父よ、/御名が崇められますように。御国が来ますように。
11:3 わたしたちに必要な糧を毎日与えてください。
11:4 わたしたちの罪を赦してください、/わたしたちも自分に負い目のある人を/皆赦しますから。わたしたちを誘惑に遭わせないでください。』」 

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イエスは、当時の宗教指導者たちの祈りを強く批判していました。彼らが、これみよがしに長々と祈っていることについて指摘し、それが結局は自分のため、自分中心の祈りでしかなく、神を中心とした祈りになっていないということでした。そこで、イエスの弟子たちは、「どう祈ったらいいのでしょう」とイエスに質問します。その答えが、主の祈りでした
祈りの冒頭に「父よ」という呼びかけがあります。これは、もちろん神に対する呼びかけです。そして、もしかしたら、この主の祈りの最大の特徴がここにあるかもしれません。というのも、神のことを「父」と呼ぶことは、当時のユダヤ社会においては、強烈なインパクトがありました。そもそもユダヤ教では、神の名前をみだりに唱えることが禁止されていました。そして神に呼びかける時には、湾曲的な表現を用いたり、多くの宗教的な称号を付けたりしていました。このことは、神は人間から遠い存在であり、宗教的に権威のある人たちのみが神に接近できることを意味していました。
ところが、イエスは端的に「父よ」と呼びました。それは、「父ちゃん」とか「オヤジ」というような、子どもが父親を呼ぶようなニュアンスです。イエスは、神を誰もが直接親しく呼びかけることのできる存在として捉えたのでした。

そのような神に、「御名が崇められますように。御国が来ますよう」と祈ります。神様の愛で私たちを満たしてください、と言うような意味を持っています。

次に出てくるのが「必要な糧を毎日与えてください」という祈りです。ユダヤ教の伝統的な祈りとは異なり、この祈りはイエスの独創的なものです。毎日の食事というのは、人間が生きていくための基本ですが、イエスの生きていた現場では、毎日食事が食べられるかどうかは、切実な課題でありました。今、ここにいる私たちにとっては切実でないかもしれません。しかし、私たちがこの祈りを祈る時、これからも安心して食べられますように、と願うだけでなく、切実な現場で生きていたイエスの祈りに導かれながら、必要な糧が世界中に届けられますように、毎日きちんと配分されますように、という願いを込めるのが、本来的な意味でありましょう。

そして、「わたしたちの罪を赦してください、わたしたちも自分に負い目のある人をみな赦しますから」と祈ります。当時、人々が罪を犯し、それを神に赦してもらうためには、神殿に行って生贄を捧げ、祭司に頼んで祈祷をしてもらう必要がありました。しかし、イエスは、そのような神殿での生贄は不要であり、人々は神に直接祈ることができるのだと理解しました。そして、当時の宗教体制による複雑なシステムによる神への祈りを激しくシンプルにして、誰にでもアクセスできるようにしたのでした。

イエスは、こんな風に、神に直接、簡潔に祈ればいいのだ、ということを言われたわけです。この祈りの箇所の後、有名なイエスの言葉があります。「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門を叩きなさい。そうすれば、開かれる」です。これらの言葉も、イエスが示された祈りと関連づけて考えるべきでありましょう。「求めなさい」とは、金銭や権力なども、求めれば与えられる、ということではありません。「探しなさい」とは、自分だけが食べられる極上の美味しいものも探せば見つかる、ということではありません。そうではなく、神の国、すなわち、神の愛が世界に充満すること、たとえば、みんなが等しくご飯を食べられること、そうしたことは、求めれば与えられるのだと、イエスは人々を勇気づけたのでありました。

私たちは、この社会の中で、競争に勝ち抜かなければ生きられないと感じたり、あるいは自分のことに精一杯で、他の人のことまで考える余裕がないと思ったりすることがあると思います。私たちはそのような社会を生きざるを得ないわけですが、私たちは、それでもなお、私たちの世界が、そのような世界ではなく、御国が来ること、神の愛が充満することを求めたいと思います。自分だけが勝ち抜けようとする誘惑に溺れることなく、人々と神の愛を分かち合うことを求め、イエスと共に、主の祈りを祈ってまいりたいと思います。
(チャプレン・相原太郎)


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